2050年2つのシナリオ

●2022年秋発行予定の「みらいみたいなマンガ集2022秋号」の企画案です。
●地球温暖化対策がかろうじて効果のあった2050年と失敗した2050年の2つのシナリオを一つの本の中で前後に構成したいと思います。
●私は一番下に例示したシナリオをマンガ化する予定です。みなさんもそれぞれ下に例示した要素を参考に自分のアイディアも加味してマンガや1コマ、4コマ漫画、イラスト、エッセイなど寄稿いただけないでしょうか。
●この元になっているのは日本ビッグイシューNo428号に掲載されたイギリス版ビッグイシューの物語形式の記事です(著作権の関係で転載できませんので各自ビッグイシューを確認ください)。そこに記された予想される事象を元に日本を舞台にシナリオを再構成したのが一番下の2つのシナリオです。
なお記事のマンガ化に関しては、日本ビッグイシューへ相談をさせていただき、記事を参考に独自にアレンジする分には参考元を記せば問題ないのでは、とのご回答をいただいております。

シナリオ1 各国の温暖化対策でかろうじて1.5℃で抑えた2050年のある日、で予想される事象

  • 家:断熱の高い家、公共シェアハウス、家賃補助、雨水タンク
  • 交通:自転車、配車アプリ、道幅は人と自転車中心、電気自動車、飛行機は減り液体水素燃料
  • 社会:週休3日、
  • 街づくり:15分シティ(車無しで15分で用事のほとんどができる街づくり)、都市森林、野生動物が戻ってきた
  • 食:肉食の減少で代替え肉など、共同鶏舎、地元の旬の野菜、
  • 食品梱包など使い捨てプラスティックはほぼ使っていない
  • 世界中で大規模なプラごみ除去のクリーンアップ作戦
  • 世界的な干ばつでスーパーの棚は品不足気味
  • 衣:一生もの、不要な服の引き取り、古着中心
  • 仕事:風力発電のメンテナンス
  • 学校:持続可能性と針仕事も重要学習項目

シナリオ2 温暖化対策が十分できなかった2050年のある日、で予想される事象

  • 家:断熱が十分でなく冬寒く夏熱い。
  • 交通:道路は狭くガソリンスタンドと充電ステーションが乱立し、混雑し、公共交通も遅延の運休が頻発。
  • 社会:喘息。新しい病気やメンタルヘルスの増加。動植物の多くの絶滅で薬の材料も不足
  • 仕事:失業中、解雇の不安
  • 街づくり:虫や動物のいない森(カーボンオフセットのために過去に植林されたが動物は戻らない)
  • 食:貧相な食事。食品価格の乱高下。肉は高価で手に入らない。
  • 世界的な農業地は耕作不能地に。スーパーの棚はほぼ空。
  • 衣:粗雑な服。大量に作っては大量にごみを出すファストファッション文化の継続。
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「みらいみたいなマンガ集2022春号」裏表紙

2つのシナリオはこの図の2つの未来で何が起こっているかを具体的に想像する試みです。以下にそのシナリオ例を示します。(私がマンガ化しようとしてますが、どなたか描きたい方がおられましたら6月中でしたら融通ききますので!)

シナリオ1 各国の温暖化対策でかろうじて1.5℃で抑えた2050年のある日

●登場人物
爺さん:90歳くらい
男:40代
男の娘:10才くらい

(1)
爺、ちょっと窓を開け外の様子を見る。
道路には水たまりがあり、自転車が行きかう。
爺「ううっまだまだ寒いな。」といって窓を閉める。
爺「昔の窓はアルミサッシで触れるとキンと冷えてたものだけどガラスも3重になってホント助かる。」
[この公共シェアハウスは断熱のおかげで1つのエアコンで家全体を温めてくれてる。
屋根の太陽熱温水器やソーラーパネルもあるので光熱費は年間を通じて急な増減はなくなった。]
爺さんは着替えて背を曲げ足を引きずるようにひじ置きのある変わった椅子によっこらせっと座り、ボタンを押す。
すると椅子がおじいさんの体にフィットするように装着されてたちまちおじいさんの背筋は伸びすっくと立ち姿に。
足や腕、指もサクサク動きだす。
爺「よしっ!」
(2)
階段を下りていくと食堂スペース。食事の乗ったトレイを持って共同テーブルに。テーブルには男とその娘さん。
爺「おはようございます。昨夜はひどい雨だったね。ずっとここに住んでるが昔の冬はからっとしてたがなぁ。」
娘「おはようございます。そうなの?」
男「おはようございます。おかげで雨水タンクは満タンです」
爺「まったくね」
食堂のテレビ(半透明フィルムのようなテレビ)で世界の異常気象ニュースをやっている。
爺「ドイツでも洪水被害が出てますね」
男「ほんと洪水って予想できないものっすかね。私は10年ほど前に低地だけど堤防が高いから安全だって言われて家買ったんですよ。でもダメだった。」
男「ああ、たまには本物の肉が食べたい!」
爺「あ、でも最近の代替え肉は旨いですよ。」
男「生を全うした家畜からできた旨味調味料のおかげってやつでしょうけどね」
娘「おいしいだけじゃなくって栄養的にもバランスがとれるんだって。元気な動物を殺して食べるのは私はイヤ。」
男「(しぶしぶ)はいはい。」
(3)
「ピピッ」男は腕につけたスマホを見て
男「あ、配車アプリの通知だ。俺先に仕事行くから、学校に遅れないようにな。」
娘「いってらっしゃい」
お父さんが出かけた後に
爺「お父さんは沖の風力発電所で仕事してるんだったよね。」
娘「そう。タービンエンジニア!むかし「ひせいきこよう」って仕事から転職したんだってよく言ってる。」
娘は腕のスマホ端末から手のひらに半透明モニタ画面を広げて働くお父さんの画像を見せる。洋上風力発電所の壮観な風景も映る。
爺「たしかに昔は非正規雇用が多かったな。昔はど~も変だったな。でも再生可能エネルギーを一所懸命増やしたおかげで各地で持続可能な仕事が増えたからお父さん転職できたんだね。」
娘「そうなんだ。」
爺「ほら見てごらんこれも洋上風力発電所だよ。」
爺さんも腕のスマホ端末から手のひらに半透明モニタ画面を広げて写真を見せている。遠くに白い山々が映り込んだ広大な海に無数の風車が並ぶ。
娘「わぁたくさん並んでるね。どこなんですか?」
爺「南極の近くのとても遠いところに年がら年中風が吹き荒れるところがあってね、若い頃にそこで仕事してたんだよ。」
娘「でもこんな遠くの海の上で電気を使う人はいるの?」
爺「海水から液体水素燃料っていうのを作って世界中に売りに行くんだ。調整用の火力発電所の燃料になったり、今では少なくなった飛行機の燃料だったり、今ではほとんど電気自動車だけど、ある国では昔のガソリン車を改造して燃料にしてるそうだよ」
娘「そうなんだ!」
(4)(5)
爺と娘が外に出て並んでいる。娘は自転車にまたがってる。爺さんは徒歩。
娘「おじいさんも自転車にすればいいのに。」
爺「これで歩いたほうが関節の運動になるんだよ。」
娘「そうなんだ。じゃあ、いってきまーす。」
爺は街の風景を眺めるように歩き始める。
[ここは車無しでも15分かければたいていの用事が済む「15分シティ」なんだが、江戸時代みたいだからと「お江戸シティ」って言う人もいる。
今住んでる公共シェアハウスは家賃補助も出るので低賃金の人も住める、さしずめ江戸の長屋だ。]
[道路は歩行者と自転車用に広くとられて車も少なくなった]
[車が少なくなる中で自動車産業は私が今装着している介助ロボなど他産業に力を注いでくれたおかげで、私のような爺さんでも一人暮らしできてるから助かるよ。]
[近場で用事ができるように地域の商店街も復活した。CO2排出を抑えるために労働はほぼ週4日制になったこともあって、アートギャラリーやカルチャーセンターなども増えた。
病院や役所の公共サービスの拠点も15分シティごとに充実している。]
(朝市でにぎわう横を通過)
[15分シティの周りには農家があり、下水処理され熟成された肥料はその周りの農家が引き取ってくれるなど江戸時代と似たところあるから「お江戸シティ」ってね。]
(6)
爺はこんもりした森のような場所に到着。
[ここは昔都市の猛暑を緩和するために各所に作られた都市里山だ。]
爺は草むしりをはじめる。遠くにはビル群が見える。
ちょっと大きめの放し飼いの鶏小屋の前で鶏に餌をやりながら何人かの老人たちと楽しそうに話をしている。
「昨日の雨で俺の畑は水浸しになっててかき出すのに大変だった」「今年は桜の開花が2月に始まるらしいよ」…等々
(7)(8)
ちょっと暗くなりかけの街をリュックを担いで歩いて帰る爺の後ろ姿。リュックから大きな菜っ葉(フダンソウ)がはみ出ている。
娘「おじいちゃん、おじいちゃん!」そう言われて
「ううっ」と目をさます爺。
娘「目をつぶって歩いてるからびっくりしちゃった。」見るとお隣の娘さん。
爺「はは、どうも歳を取るとすぐ眠くなってな。介助ロボは家まで自動運転してくれるから安心して寝れる。」
娘「もう人騒がせなロボットだ!」
爺「呼吸や心拍数や脳波の異常を見つけたら病院まで連れてってくれるから便利なロボットさ。」
爺「ところで、こんな暗くなって買い物かい?」
娘「服が破れちゃってここの循環服屋さんで交換にきたの。」
爺「破れたのなら縫えばいいじゃないか。学校では持続可能性授業っていうのができて実習もするんだろ?」
娘「もう布地自体がぼろぼろだったのよ。私のおばあさんのおさがりをリフォームした服だったから引き取ってもらってその代わり新しい古着を安く買えちゃった。」
娘「おじいさんの時代は一回着たらもう新しい服を次々着れたんでしょ?いいなぁ。」
爺「はは…そんな時代もあったかな。その代わり使い捨てのゴミで山ができるほどだったけどね。」
娘「それはいやね~」
爺「野菜もお菓子もひとつひとつプラスティックに包まれて、家に帰るとすぐゴミ箱行きで、そんな生活をしてたら当然のように海も山もプラスティックのゴミだらさ。」
娘「変な時代だったのね」
爺「今では世界中で大規模なプラごみ除去のクリーンアップ作戦やってるしプラスティックのリサイクル技術も進んだけれど、昔はリサイクルできないものでも便利だからってどんどん作って作り続けて…昔はど~も変だったな。」
(9)(10)
おじいさんと娘は一緒に暗くなってきた道を歩いている。緑化されたビルなどけっこう緑も多い。人がいるところだけ街灯が点灯している。
爺「そうそう今日里山でカモを見たよ。」
娘「じゃあ今年も子ガモが見れるね!楽しみ!」
爺「長年ここに住んでいるが、いろんな動物も増えたなぁ。」
娘「あ、なんか夜にタヌキが交通事故にあったって。学校で夜は気をつけなさいって言ってた。」
爺「街灯は動物では反応しないようにしているらしいから間違って道に入ってくるんだろうね。動物侵入防止のフェンスなんかも増えてきたけど十分ではないわけか。」
娘「あ、あれ!」
ちょっと横の暗い路地に野生のシカがじっとこちらを見ている。その目がライトにきらりと光った。
そしてゆっくり背を向け歩き出す。その後ろに2匹の小鹿も。
娘「かわいい!」
二人顔を見合わせ笑い合う。
二人の後ろ姿
爺「今年は桜が二月には咲くらしいよ」
娘「もうすぐだね」
[科学者たちによると、気温もやがて徐々に下がり始めるだろうということだ。]

シナリオ2 温暖化対策が十分できなかった2050年のある日

●登場人物
男 60代
女 50代
女の息子 10歳くらい

「2つの未来シナリオ シナリオ1:温暖化対策が十分できなかった2050年のある日」
(1)
ベットの上で目覚める。60代男。
男「う~寒いなぁ」
ガス暖房をつけ、暖を取る。ちょっとせき込む。
お隣からは幼い息子の苦しそうな咳が聞こえる。
男「大変だな」
男「失業中だからこんな薄っぺらい壁のシェアハウスで我慢するしかない」
といって部屋を出ていく。
(2)
階段を下りて食堂でトーストと薄いコーヒーと豆の朝食を受け取る。
シェフ「今日は輸入豆が手に入ったから朝から栄養補給できますよ」
と笑う。こちらは苦笑い。
男「昔は毎日肉や野菜をたらふく食べていたのが夢のようだね」
シェフ「そうですね」
大きなテーブルの端に座り食べながら食堂の半透明の大きなテレビを見る。ニュースで世界の災害のニュースをやっている。
そこに咳がちの息子と母親の女。
シェフ「ミルクは今日も無いんですよ」
女「そう、じゃあスープで」
(3)
男「おはようございます。ニュースでアメリカでも大寒波がきて大変だってやってましたよ」
テレビはすでにスポーツの話題に切り替わっている。
女「もう毎日うんざりですね。温暖化だから暖かくなればいいのに、九州で積雪1mもあったら家がもつわけないですよね」
男「大変でしたね。損害保険には入ってたんですか?」
女「保険会社はあまりの請求の多さに倒産したのよ!」
と泣き顔を手で覆う。
[彼女は積雪による家の倒壊で夫を亡くし、仕方なく生まれ故郷の関西に先週越してきたのだった。]
息子「ママさん、ママさん、大丈夫?」
女「ごめんね。ごめんね。大丈夫よ」
女「この子を病院に連れていきたいんですが近くに呼吸器内科の病院はご存じありませんか?」
男「この近くには感染症とメンタルヘルスの病院ばっかりですね。」
女「今年もまた新しい感染症の兆候があるらしいですね」
男「勘弁してほしいですよね。郊外に大きめの総合病院がありますよ。ちょっと遠いですけど」
女「ああ、やはりそこだけですか。たしかバスが出てますね。」
男「なんなら今日は暇なんで車で連れて行ってあげましょうか?」
女「お時間は大丈夫なんですか?」
男「失業中ですから」
女「年金生活ではないのですか?」
男「あと10年は働く必要はあるんですが、なかなか見つからなくて困ってます」
女「ああ。私もやっと昨日仕事見つけたんです。でもこの子のこともあっていろいろ心配で心配で…」
(4)
街は霧のようなPM2.5でかすんでいる。
車に息子さんと女を乗せて車の多くごちゃごちゃした道を運転している。みんなマスクをしている。
男「ちょっとガソリン入れますね」
[今では電気自動車が主流だが、私のような貧困層はネオガソリンに頼るしかない。
ネオガソリンはバイオ燃料の一種だってことになっているけど、炭素税を逃れるため極秘で粗悪な化石燃料を混合した安価なガソリンなのだが、それは公然の秘密なのだった。]
(5)
車からデモのプラカードを上げた集団がマスクをして声を張り上げているのが見える。
男「最近こういうの多くなりましたね。」
女「今さら声を上げたって遅すぎるのよ。」
男「そうですよね~私が子供の頃もSNSでは盛り上がってた気がするんですが、それだけでしたね。」
女「遅すぎるのよなにもかも…」
(6)
病院の待合室で
男「どうでした?」
女「アレルギー性喘息だって。そんなの私にだってわかる! 原因物質は不明なんだって。」
男「そう…」
薬局の受付で
女「このお薬お願いします」
店員「当店だけでご用意できるのは処方箋の半分だけですね。すみませんが他の薬局も当たってください。
ここ数十年で動植物の絶滅の影響で薬となる原料も貴重になってきているのです。すみません。」
(7,8)
女「ああ、もうすっきりしない。なにもかもいやんなる」
男「気分転換にこの近くの森林公園に寄って帰りませんか」
車は都市のはずれの緑ある公園へ。ゲート前の説明板が。
女「ここは三好銀行がカーボンオフセットのために植林してた森なんですね」
男「その一方で石油・石炭開発に多額の投資をし続けて、とうとうつぶれちゃいましたね。」
森を歩く三人
女「とても静かなで落ち着きますね。空気もキレイだし」
男「そうですね。でもちょっと静かすぎるかな?」
男「子供の頃はいろんな昆虫を追いかけて遊んだものですが、今の子供たちはかわいそうですね」
息子「図鑑で見たよ」
男「そうだ、ほら昔はこんな風だったんだよ」と腕のスマホをかざすとVR空間が一面に広がり鳥や小動物や虫たちが静かな森の風景に重なる。
うれしそうな息子さん。
(9,10)
車で森を抜けた海岸線に出る
男「あ、昔はここがまだ海に沈む前、もっと沖に海岸線があって、その先で一度イルカを見たことがあります」
女「イルカ!いたんですね」
息子「みんなどこに行っちゃったんだろう。プラスチックと入れ替わったのかな?」
沿岸には大量のプラごみが見える。
女「この服もプラスチックだしね。プラスティックの元は昔の生物だっていうから、生まれ変わりかもね」
息子「そうか、じゃあきっとそうだね」
ハンドルを握る男は固まる。急に涙があふれて車を止める。
女「どうしたんですか?」
声にならない嗚咽の男。
[どうして僕らは気候変動をもっと抑えられなかったのだろうか?]
海岸線と車。遠くに明るい都市の光。どんより重い雲から雨が。

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