イタガキノブオ

まず最初に、私は北海道歌志内市(うたしないし)という過疎化の極みにある炭鉱町で生まれ育った人間であるということを申しあげておきましょう。
高校を卒業するまでその歌志内市に住んでました。
最もマンガに親しんでたのは中高生の頃でしたが、そのような田舎町なので、マイナーでマニアックなガロ系のものは中高生の頃には縁が無く、もっぱら比較的メジャーなものばかり読んでました。
中高生の頃に好きだったものは、手塚治虫「ブラック・ジャック」、石森章太郎「人造人間キカイダー」、永井豪「デビルマン」、萩尾望都「ポーの一族」、白土三平「カムイ伝」などでした。
当時(16才・高1)のとき描いた「人造人間キカイダー」のイラストがあるので参考までに、そのカラーコピーを送ります。

その後、旭川市のデザイン大学に進学したので…道外のかたにはわかりにくいかと思いますが、旭川は、北海道では札幌につぐ都会なので、いっきに都会生活になり、書店でガロ系のマンガを見つけ、ガロ系に親しむようになります。
 特に鈴木翁二、鴨沢裕仁、たむらしげる等の世界にはまりました。
 また大学期には、マンガだけではなく、澁澤龍彦、稲垣足穂といった幻想文学にもはまることになり…その頃、澁澤&足穂は文庫本の新刊が殆ど出ていなかったので、古書店で古い初版本を探すなどして、苦労しながらも楽しんでました。
 そして大学3年の時に、稲垣足穂チックなドキュメンタリー風の漫画の「写真記」を描き、ガロに投稿して入選しました。
 ガロに入選してすぐに第2作目を描きはじめました。
前作とはがらり違った「ネガティブストーリーズ」という、イメージの断片集でした。
「前作は良いけど、これはダメ」と言われたならば、ガロには続けて描かないつもりでした。でもOKと言われたので、ガロに次々と描くようになりました。おかげで充実した大学生活を送りました。

 大学を卒業して、東京の印刷会社に就職が決まり、上京しました。
けっこう仕事をおぼえるのが大変な会社員生活でしたが、会社帰りに、神田神保町の古書店街をうろつきまわり、様々な発見をしました。
……百年くらい前のフランス文学…特に大正から昭和初期に出た堀口大学編訳による詩的コント集「詩人のナプキン」「花賣り娘」「聖母の曲芸師」などにどはまりしました。
 その頃が、私の人生でいちばん充実してた時期かもしれません。

 また吉祥寺の絵本屋トムズボックス等で、欧州のひとこま漫画本を見つけ、ボスク(Jean-Maurice Bosc)、トレーズ(Alain Tredez)、ローラン・トポール(Roland Topor)、アンドレ・フランソワ(André François)等の作品集に感銘を受けました。
のみならずその種のものを自分でも描き、自費出版の形で刊行もしました。「ひとこま漫画こそがマンガの原点である」と現在の私も思っております。

また、その後、東京の映画館…特にマニア受けのするミニシアター(池袋のACTセイゲイシアターとか早稲田のACTミニ・シアターとか)によく行き、そこでカルトの帝王アレハンドロ・ホドロフスキーの映画に出合いました。
ホドロフスキーの「エル・トポ」「聖なる山」「サンタ・サングレ」にどぎもを抜かれました。
 ほかにも、キリスト教系神秘主義とくにルドルフ・シュタイナーの世界にはまっていた時期もありますが、シュタイナーが、私の描くものに影響を与えたということは無さそうに思うので、これは略します。

「ネコムシストーリーズ」は、私がガロにマンガを描き始めた大学生の頃に、もうだいたいの原案は出来あがっていたのでした。でも勿論ガロには合わないので、しかるべき雑誌に出会えた時のために保留にしておいたのでした。
 やがて上京し、最初の単行本「ネガティブ」が出たあたりに、当時よくガロ編集部に顔を出してたのが縁で、ガロの忘年会だったか新年会だったかに呼んでいただいたのです。その飲み会の中に居た、ガロ編集部OBの斎藤利史さんというかたから、こう話しかけられました。
「オレいま、茶水の編集スタジオで仕事してるんだけど、こんど偕成社から「コミック・モエ」という漫画雑
誌が出ることになってね。その雑誌イタガキさんにぴったりだから、今度なにか描いて持って来てよ」と。
 そういうわけで、これ幸いとばかりに「ネコムシ第一話」のラフを描いて持っていって、即、連載が決まっ
たのです。
「コミック・モエ」はわずか6号で休刊になりましたが、編集の榎本司朗さんに誘われ、後継誌「月刊MOE」
「コミックFantasy」私家版「コミックFantasy」とえんえんと長いこと描かせていただきました。

 そういう生活の中で何度か体調をくずし、いいとしをして北海道の実家の両親の世話になっていたこともあります。そして47才くらいのとき、脳出血をおこして、本格的に北海道ぐらしになってしまっていまに至ります。とほほ……。
(イタガキノブオ 2025年) 

イタガキノブオ:1963年、北海道出身。1985年「ガロ」でデビュー
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雑誌「ガロ」掲載作品
1985年
「写真記」(入選作品)4月号No250 ■
「ネガティブ ストーリーズ」6月号No252 ■
「闇夜の海から」8月号No254 ■
「ネガティブ ストーリーズII」9月号No255 ■
「幽霊河原少女譚」10月号No256
「電気仕掛けのヤジロベエ」11月号No257 ■
「ネガティブ ストーリーズIII」12月号No258 ■
1986年
「アリジゴク・エレジー」2,3月号No260 ■
「フライング・マシーン」4月号No261 ■
「ネガティブ ストーリーズIV」5月号No262 ▲
「義手と義眼」6月号No263
「プラナリアの話」7月号No264
「電球譚」8月号No265
「スタンプ・シティ」9月号No266▲
「カメレオンが錆びた日」10月号No267
「鉄道員」12月号 No269▲
1987年
「ネガティブ ストーリーズV」1月号No270▲
「グレイ・コクーンの見る夢は」4月号No272▲
「ネガティブ ストーリーズVI」5月号No273▲
「処刑台にて」7月号No275▲
「冷たい部屋の三葉虫」8月号No276
「ネガティブ ストーリーズVII」9月号No277
「黒猫」12月号No280
1988年
「毒の詩」 1月号No281
「人体倶楽部」2,3月号No282
「硝子人異聞」4月号No283 ▲
1989年
「星とペテン師と」1月号▲
「今宵コンパス・キャットここにあり」4月号▲
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本:ひとこま漫画作品集
1993年
「the CATALOGUE of ABC」
「Gun, Gallows, Guillotine」
「Moon Book」
1994年
「DOUBLES」
 以上4冊はトムズボックス
「白い色鉛筆の王国」 沖積舎
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 雑誌「ガロ」掲載作品
「ヴァリアント1~17」1992~1994年
「モデルブレーン1~4」1993~1994年★
 ←「キネマ・ルナティカ」単行本で「夜間飛行」として掲載
1996年
「天井桟敷の人々」1月号 ●
「地下室のメロディー」10月号 ●
「彼氏の異常な愛情」12月号
1998年
「血と砂」1月No393 ●
「レインコートの肖像」2月No394 ●
「肉片」3月 No395
「キネマ・エロティカ4~8」4月 No396●
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雑誌「コミック・モエ」(偕成社とMOE出版)
および「コミックFantasy」掲載作品
「ネコムシストーリーズ」1988~1998年
1993年
「つめたい部屋の三葉虫」No6
1994年
「オルフェ」 No9 ★
1995年
「甘い生活」No11 ★
「プラナリアの話」No12
「八十日間世界一周」No14 ★
1996年
「イカルス」No15 ★
「太陽がいっぱい」No16 ★
「ゴーレム」No17
1997年
「木靴」No20
1998年
「恋路」No23
「サロメ」No26
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氣刊「何の雑誌」(幻堂出版)掲載作品
「死んだ怪獣の利用法」2002年
「へのへのもへじの仲間たち」2004年
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私家版「コミックFantasy」掲載作品
「ネコムシ・ストーリーズ」10作ほど
 ←ポプラ社単行本5巻以降の描きおろし
「指輪」No2
「ヴァリアントI〜XI」
「吸血鬼」
「生きもの図鑑」1~28(+佐藤弓生)▼
「乙女の座」No10
「闇夜の海から 追加編2」No15
「葦笛」No16
「じんたい図鑑」 ▼ …等々
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雑誌「ビザール・マガジン」掲載作品
「禁じられた遊び」 1993年11月No11 ●
「第三の男」  1994年11月No17 ●
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単行本
「ネガティブ」 青林堂 1986年
 ■印:収録作品
「ペーパーシアター」 青林堂 1989年
 ▲印:収録作品
「キネマ・ルナティカ」偕成社 1996年 
 ★印:収録作品 
「キネマ・エロティカ」幻堂出版 2016年 
 ●印:収録作品
「生きもの図鑑」榎本司朗さん追悼の同人誌でもあります 2020年 制作協力:秋元
 ▼印:収録作品

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